お口の健康 第5回「お口の健康が老化予防につながる理由」

お口の健康について

元気な人は知っている、お口の健康が老化予防につながる理由

 身体が悪くなったから、口の中が悪くなったのではなくて、口の中が悪くなった後に、徐々に弱ってきた人が多いということを実感します。

肺炎で入退院を繰り返して亡くなった人たちの口の中は、歯がほとんどなかったり、口の中が汚れていたりして、噛み合わせが崩壊している人が多いのです。

このような口腔機能の低下は、歯の抜けているところがどんどん広がっていったからです。その前には、歯が1本、2本から数本抜けた段階です。さらに、その前は歯周病やむし歯でグラグラしたり咀嚼が困難だったりということです。

口の機能が低下したオーラル・フレイルの時点では、まだ体の状態はフレイルまで来ていないので、この時点で歯科治療によって口の機能を取り戻すことでフレイルへの移行を予防しましょう。歯周病やむし歯の治療をして、歯が抜けたまま放置せず入れ歯を入れるということです。

後は、滑舌の衰え、食べこぼし、わずかなむせ、噛めない食品が増えて嗜好が変化するなど、ささいな口の機能の衰えを軽視しない事です。こういう症状に気づいたら内科医院で栄養状態をチェックし、歯科を受診して相談しましょう。

口の衰えが身体の衰えと密接に関わっているので、医科との連携が非常に重要です。「フレイルの予防はオーラル・フレイルの予防から」と「いつでも、どこでも、だれでも」が受診できる環境を構築し守り通すことこそが、国民の健康寿命を達成する基盤です。

お口の健康 第4回「歯の数が多いほど、老化が遅いか?」

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老化の進行は、個人差が大きく病気(認知症)との違いもはっきりしません。ある年齢における平均的な身長と体重は成長曲線から見当をつけることができますが、「70歳の身長と体重は平均的にこれくらい」という基準値はありません。認知機能にしても「70歳の平均の認知機能」なんてありません。ただ、人によって老化のスピードが「早い、遅い」の差があり、それが異常に早い人たちは認知症ということになります。

脳の老化を防ぐ仕組みは存在すると考えられます。その仕組みの1つの柱が唾液です。唾液がたくさん出ている人は老化が遅いのではないかと考えます。歯が抜けても入れ歯を入れる事で咀嚼は可能になります。入れ歯で奥歯の噛み合わせのできる人は、データであるように入れ歯を入れることによって運動能力がある程度改善されるようです。だから自分の入れ歯を入れてでも噛める口を作ることが重要なのです。

歯が1本もない人の中で、入れ歯を入れて生活している人たちの場合は、1人でどこでも出かけられる人の割合が、入れ歯
を入れずに生活している人よりもかなり高く、寝たきりも少ないのです。歯を抜きっぱなしにして入れ歯を入れないままというのはよくないということが分かります。

お口の健康 第3回「歯の数が寿命に影響する?」

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健康寿命と8020(ハチマルニイマル)運動

日本人の平均寿命はいまや80歳を超え、健康な状態で社会生活を送れる健康寿命もほぼ世界一なのです。それでも平均寿命と健康寿命との間には、男性で9年、女性は12年半という差があります。

老化を遅らせるには「口の健康を維持することが大きな要素であること」は間違いないと思います。日本歯科医師会は「80歳で20本以上噛める歯を維持する」という8020(ハチマルニイマル)運動を展開しています。

80歳で歯が20本以上ある人よりも歯が1本もない人は、1か月で医療費が1万5千円ぐらい高く、1年間でその差は18万円程になります。1~9本ある方は月に7000円程、10~19本の方も3000円程という差があります。つまり歯がたくさん残っている人は医療費が少なく、病気になりにくいということがデータから明らかになっているのです。

また、入れ歯で奥歯のかみ合わせのできる人は、転倒が少ないというデータがあります。歯がたくさん残っている人はもちろん元気だけれど、歯も入れ歯もない高齢者は、元気な人が少なく寝たきりが多いということになります。

お口の健康 第2回「歯を失うと、転倒リスクが高くなる?」

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高齢者において「噛み合わせ」と転倒の関係はどうでしょうか?図は、認知症高齢者の噛み合わせの有無と転倒回数です。奥歯がなくて噛み合わせが出来ない人は1年間の転倒回数が多く、自分の歯でしっかり噛み合わせが出来る人は、転倒回数が少ないという結果です。

寝たきりになる原因は脳卒中が一番多く、二番目が転倒による骨折です。それで歩けなくなって、そのまま寝たきりになるというパターンが多いのです。左右の奥歯でしっかりと噛める人は転倒が少なく、寝たきりになりにくいと思われます。

「噛むこと」、つまり咀嚼中は大量の感覚情報が脳に流れ込んでいます。脳はそれにもとづいて指令を出すので、常に働き続けでいます。「噛む」と脳が活発に働くということが言えるわけです。あれこれ考えなくても「ただ噛むだけ」で脳が活発に動いてくれる。脳は働らかなったら衰え、働かせることによって維持できるのです。

「歯が抜けずに残っている」人は、定期的なクリーニングを継続して受けている人です。クリーニングを行った歯は、歯磨きが非常にやりやすくなり、虫歯や歯周病の進行を抑えることができます。口の中の疾患も早期に見つけてもらえ素早い対応が可能になります。3か月に1度くらいの割合でクリーニングのために歯科受診をしている人は、歯が抜けにくいということになります。

お口の健康 第1回「人は口から老いる?」

「サルコペニア(筋肉量減少症)」と負のサイクル

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人間というのは、身体・精神・社会性の3つの側面から弱っていきますが、最も大きな影響を持つのがからだの虚弱です。からだの虚弱の本質は筋肉が減少していくことで、からだを動かす筋肉が細って減ってきたということです。この筋肉の減少をサルコペニア(筋肉量減少症)といいます。

サルコペニアには食べる機能の低下が食事摂取量・たんぱく質の低下を引き起こすサイクルがあります。食べる機能の低下は「歯が抜けること」であり、それによってひきおこる口腔機能の低下によるもので、口の周囲の筋肉やかむ筋肉の量も減少します。

つまり口のサルコペニアが起こり、これで食べられなくなり、続いて全身のサルコペニアからさらに口腔の筋肉が減少するというサイクルが完成します。低栄養からサルコペニアになる前に、「入れ歯を入れて噛める口に」改善できたら要介護への道を先延ばしにできるということです。このように「口の衰え」が身体の衰えと密接に関わっているので、医科との連携は非常に重要です。


5つのテーマに沿って連載します

大阪府歯科保険医協会の協力を得て、5つのテーマで連載します。具体的には、「人は口から老いる?」「歯の数が多いほど認知症にならないか?」「歯を失うと転倒リスクが高くなる?」「歯の数が寿命に影響する? 」「元気な人は知っている。お口の健康が老化予防につながる理由」という5つのテーマです。

身体もお口も健康に-オーラルフレイル-