認知症になっても(8)

認知症を患った方とどう付き合うか(4)

ユマニチュード(2)「話す」

暑くなったり、寒くなったり気温が安定しませんが、少し過ごしやすい季節になりました。10年に1度という言葉が最近よく聞かれますが、今年の夏に10年に1度の暑さが何日あったのか調べてみました。6月の下旬に1週間、7月の中旬に9日程度あったようです。

「もっとあったやん」そう思ったのでもう少し調べましたが、8月にかけては歴史的な暑さという記述はありましたが、10年に1度という言葉はありませんでした。「10年に1度」と「歴史的」どちらが上なのかよくわかりませんが、暑かったのは間違いなさそうです。

今回の話は、物事をどうとらえるか?という物事の枠組みを少し変える事で相手に与えるメッセージが変わるという話をさせて頂きます。

いつまでねてんの!もう8時やで

この話をするときにいつも例にだすのが私の母の話になります。「いつまでねてんの!もう8時やで」私が学生の時に1000回は聞いた言葉です…。「いつまでねてんの!8時やで」の、トーンは高く、ボリュームも大きく、早い口調でした(ねてる私が悪いという論調は置いといて)。

この口調は、相手と言い合いをしているときに使ってしまう口調と同じと言われています。基本的に喧嘩をしているときは、穏やかな口調で、ゆっくり話をする人はいないでしょう。相手を威嚇するときに、自然と声は高くなります。苛立つと大きな声になり、早口になってしまいます。これらは、ネガティブなメッセージになります。ネガティブな口調で話すことで相手をさらに不快にします。ケアの現場では、ケアを受け入れてもらえる可能性は低くなります。

おはよう8時になったよ

相手にはポジティブなメッセージを伝える必要があります。「話す」ための具体的な方法は、優しい言葉、穏やかな口調、聞き取りやすいテンポ、適度な話の間が必要になります。ケアをする中で、どうしても口調が荒くなってしまいそうなときは、一呼吸置きましょう。また、別の言葉に言い換えることも有効とされています。先ほど母の言葉を言い換えてみます。

「おはよう(優しい笑顔と声で)。8時になったよ。朝ごはんのいい匂いがするね。そろそろ布団から出ましょうか(穏やかな口調・ゆっくり)」ぜひ、このポジティブな言葉を、ご自身の家庭、ケアの場面で試してみてください。まずは、朝の挨拶を『穏やかな口調』に変えることから始めてみましょう。

淀川勤労者厚生協会 介護福祉部長 江﨑 達哉

認知症になっても(7)

認知症を患った方とどう付き合うか (3)

前回は、脳血管性認知症についてお伝えしました。
連日、最高気温を更新する「地球沸騰化」という言葉が聞かれるほど暑い日が続いています。前回のテーマであった脳血管性認知症の要因の一つである脱水が起きやすい時期ですので、こまめな水分補給を心がけてください。

今回は、「ユマニチュード」という技法についてお話しします。ユマニチュードは、「あなたは大切な人です」というメッセージを「見る」「話す」「触れる」「立つ」という4つの要素を通じて相手に送ることで、認知症の方の尊厳を保ち、その人らしい生活を送ることを目指す技術です。

私たちは、日々生活を送る中で、苦手な人や嫌な物を見たときに、無意識のうちに言葉や態度で「あなたは苦手な人です」というメッセージを送ってしまいます。これは人間の防衛反応であり、特に気にする必要はありません。しかし、認知症ケアにおいては、このような態度が原因で、相手に不信感を与え、コミュニケーションを諦めてしまうことがあります。これが、ケアがうまくいかない原因の一つとされています。

たとえば、散歩中に怖い人を見たとき、その人をじっと見つめる人はいませんよね。声をかけられるのを避けようと、横目で見るか、見ないふりをするのではないでしょうか。反対に、赤ちゃんや小さい子どもが一生懸命歩いている姿を見たときはどうでしょう。笑顔で見つめることができます。

ユマニチュードでは、後者のようなポジティブな関わり方が重要だと考えます。人は、苦手な人を優しい目線で見ることは、意識的に訓練しなければできません。もし、認知機能が低下した方に、不信感や不安感を伝えるような目線を送ってしまうと、その感情は相手に伝わり、ケアを受け入れてもらうことは難しくなってしまいます。

まず客観的に、あなたがどのような方に、どのような目線を送っていたか確認してみてください。相手を尊重することで、心を通わせ、ケアを受け入れていただくことが可能になります。
次回は、「話す」「触れる」「立つ」の技術についてお話しします。

淀川勤労者厚生協会 介護福祉部長 江﨑

認知症になっても(6)

認知症を患った方とどう付き合うか(2)

 前回では、対応事例をお伝えしました。

今回は、脳血管性認知症についてお話をさせて頂きます。これは認知症の中でも予防(発症のリスクを下げる)が出来ると考えられています。

脳血管性認知症は、脳梗塞や出血などの脳血管障害により、脳の血流が悪くなり、神経細胞がダメージをうけることで起こると言われています。

そのため、認知症の症状は、脳のダメージを受けている場所によって出方は様々です。進行の仕方も病気が発症するにつれ、段階的に進むと言われています。

言葉が出にくくなったり、言葉の意味を理解できなくなると言われている言語障害。物事の計画を立てて、実行するのが難しくなる実行機能障害、意欲低下や不安感。脳の病気によっては、運動麻痺や、歩行障害がでることも特徴とされています。

脳血管障害がおこる事で発症する認知症を予防するには、脳血管障害をおこす病気のリスクを下げる事が大切です。その病気とは、高血圧や糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病と呼ばれているものです。女性より、男性の方がこういった病気になるリスクは高いと言われています。

予防方法としては、適度な運動や、ストレス管理、脱水予防、禁煙、などがあてはまります。
自分自身の健康方法などを健康友の会班会などで共有して、お互いの健康を守るための取り組みをしていきましょう。

次回の記事では、「ユマニチュード」という技法に触れたいと思います。認知症ケアだけでなく、人の尊厳を守るコミュニケーション技術です。私がケアをしていて実際あった事例なども交えてお話させていただきます。

淀川勤労者厚生協会 介護福祉部長 江﨑

認知症になっても(5)

認知症を患った方とどう付き合うか

前回の記事ではアルツハイマー型認知症の事、物忘れや、時間や日付の感覚が弱くなる。認知症を改善する薬はないが、その人らしく過ごせる手伝いは介護でできるという記事をお届けしました。

在宅で介護をされている方の苦労については、この記事ではおさまりません。しかし、こういった記事を書くたびに使いたいときに使えない。お金が無いとサービスが選べない「介護保険制度」に腹がたちます。使えない時に使えない介護保険!それはまた別の機会に…。

今回は、本紙「読者の声」に寄せられた事例(内容は少し変更しています)を紹介いたします。
「あんた誰や?」久しぶりに会いに行った家族に言われた一言。
よくある事例です。

「あんた誰やったかな」。もし目の前の人が自分(親族)の事を忘れていたらどうでしょうか?とても辛い気持ちになると思います。一方で、目の前にいる人が、「あなたの孫やで」と言われたとき、思い出せない場合どういった気持ちになるでしょうか。親族にとっては辛いことですが、それを言われている方もとても辛い思いをしているかもしれません。孤独になり、情けなくなって生きている事の意味さえ考えるかもしれません。

対応については、人によるのですが、相手が自分自身の事を忘れていたとしても、その人を大切にしていた気持ちに偽りはないはずです。「はじめまして」かもしれませんが、それでも私はあなたのことを知っています。愛してるんですよ。というメッセージを投げかけることは、認知症を患っている方に、「私に会いに来てくれる人がいてる。私もまだ生きてていいんや」というメッセージになるはずです。

21年介護の仕事をしていますが、「愛」は介護のテーマだと思っています。ぜひ、介護する人を愛してください。そして介護している人も、孤独にならないでいろんな人を頼ってください。

淀川勤労者厚生協会 介護福祉部長 江﨑

認知症になっても(4)

アルツハイマー型認知症

前回は、認知症症状チェックについて書きました。地域で認知症の学習会をさせて頂くと、「認知症チェック」と「認知症予防」については毎回盛り上がります。

これは予防をすることで安心感が増し、不安やストレスが軽減されること、健康管理をすることで自己効力感(自分が有能であると感じる感覚)が高まり、自己肯定感、自尊心の向上に繋がるそうです。

今回は、アルツハイマー型認知症について書かせていただきます。
認知症の中でも7割程度を占めるのが、アルツハイマー型認知症です。アルツハイマー型認知症の原因については、まだハッキリ解明されていないのですが、生活スタイルの変化や環境的要因からだと言われています。
例えば、今まで日課として行っていたことを急に止めることで症状がでたり、喫煙や過度な飲酒、長年にわたる高血圧等もリスク要因と言われています。

主な症状としては、直近の物忘れ(記憶障害)や人の認識、時間や日付感覚、季節感がなくなる(見当識障害)といわれています。「卵を買ったことを忘れて何回も卵を買ってしまう」「夏なのにコートを着ている」等がこれに当てはまります。
こういった症状は生活のしづらさに直結してしまうので、日常生活困難と総称して言われることもあります。進行を穏やかにする薬等がありますが、残念ながら完全に症状を改善する薬はありません。

私たちが介護職として実践していることの一つに、「相手を否定しない」ことがあります。認知症を患っていても、普段通り生活をされています。それを第三者に否定されると、腹も立ちますし、反論もします。生活のずれが認知症を患う方の生活のしづらさになっているのです。その人が、その人らしく暮らせるお手伝い、それが私たち介護職にとっては一番の薬だと考えています。

とは言っても、実際に家で介護をされている方からの「24時間みているのにそんなことできない」との意見もごもっともだと思います。

次回の記事では、どう対応すればいいのかを書かせて頂こうと思います。

介護老人保健施設 よどの里 江﨑