認知症になっても(5)

認知症を患った方とどう付き合うか

前回の記事ではアルツハイマー型認知症の事、物忘れや、時間や日付の感覚が弱くなる。認知症を改善する薬はないが、その人らしく過ごせる手伝いは介護でできるという記事をお届けしました。

在宅で介護をされている方の苦労については、この記事ではおさまりません。しかし、こういった記事を書くたびに使いたいときに使えない。お金が無いとサービスが選べない「介護保険制度」に腹がたちます。使えない時に使えない介護保険!それはまた別の機会に…。

今回は、本紙「読者の声」に寄せられた事例(内容は少し変更しています)を紹介いたします。
「あんた誰や?」久しぶりに会いに行った家族に言われた一言。
よくある事例です。

「あんた誰やったかな」。もし目の前の人が自分(親族)の事を忘れていたらどうでしょうか?とても辛い気持ちになると思います。一方で、目の前にいる人が、「あなたの孫やで」と言われたとき、思い出せない場合どういった気持ちになるでしょうか。親族にとっては辛いことですが、それを言われている方もとても辛い思いをしているかもしれません。孤独になり、情けなくなって生きている事の意味さえ考えるかもしれません。

対応については、人によるのですが、相手が自分自身の事を忘れていたとしても、その人を大切にしていた気持ちに偽りはないはずです。「はじめまして」かもしれませんが、それでも私はあなたのことを知っています。愛してるんですよ。というメッセージを投げかけることは、認知症を患っている方に、「私に会いに来てくれる人がいてる。私もまだ生きてていいんや」というメッセージになるはずです。

21年介護の仕事をしていますが、「愛」は介護のテーマだと思っています。ぜひ、介護する人を愛してください。そして介護している人も、孤独にならないでいろんな人を頼ってください。

淀川勤労者厚生協会 介護福祉部長 江﨑

認知症になっても(4)

アルツハイマー型認知症

前回は、認知症症状チェックについて書きました。地域で認知症の学習会をさせて頂くと、「認知症チェック」と「認知症予防」については毎回盛り上がります。

これは予防をすることで安心感が増し、不安やストレスが軽減されること、健康管理をすることで自己効力感(自分が有能であると感じる感覚)が高まり、自己肯定感、自尊心の向上に繋がるそうです。

今回は、アルツハイマー型認知症について書かせていただきます。
認知症の中でも7割程度を占めるのが、アルツハイマー型認知症です。アルツハイマー型認知症の原因については、まだハッキリ解明されていないのですが、生活スタイルの変化や環境的要因からだと言われています。
例えば、今まで日課として行っていたことを急に止めることで症状がでたり、喫煙や過度な飲酒、長年にわたる高血圧等もリスク要因と言われています。

主な症状としては、直近の物忘れ(記憶障害)や人の認識、時間や日付感覚、季節感がなくなる(見当識障害)といわれています。「卵を買ったことを忘れて何回も卵を買ってしまう」「夏なのにコートを着ている」等がこれに当てはまります。
こういった症状は生活のしづらさに直結してしまうので、日常生活困難と総称して言われることもあります。進行を穏やかにする薬等がありますが、残念ながら完全に症状を改善する薬はありません。

私たちが介護職として実践していることの一つに、「相手を否定しない」ことがあります。認知症を患っていても、普段通り生活をされています。それを第三者に否定されると、腹も立ちますし、反論もします。生活のずれが認知症を患う方の生活のしづらさになっているのです。その人が、その人らしく暮らせるお手伝い、それが私たち介護職にとっては一番の薬だと考えています。

とは言っても、実際に家で介護をされている方からの「24時間みているのにそんなことできない」との意見もごもっともだと思います。

次回の記事では、どう対応すればいいのかを書かせて頂こうと思います。

介護老人保健施設 よどの里 江﨑

認知症になっても(3)

認知症の症状について①

―これって認知症?―

 以下の5つの中で、認知症の症状が疑われる状態はどれでしょう。

  1. ご飯を食べたことは覚えているけど、何を食べたか思い出せない。
  2. 家の鍵を閉めたかどうか心配になり、鍵がかかっているか確認しに帰る。
  3. テレビに出ている俳優の名前を思い出せない。
  4. 先週旅行に行ったが、旅行に行った事を忘れている。
  5. 最近何かと怒りっぽくなった。

(1)(3)に関しては、俗に言う「物忘れ」であり、認知症とは少し違います。自分自身が「忘れた」「思い出せない」という自覚があるところがポイントになります。

(2)に関しては、誰しも経験があるかと思います。強迫性障害といいますが、鍵をかけたのを確認しているのに何回も確認しに行く等という、生活に支障をきたす様なケースでない限り、様子をみてもいいと思います。

(4)(5)に関しては認知症の症状として当てはまるところがあります。
(4)の旅行に行ったことを忘れているといったように、自身が体験している事を忘れているという症状は、認知症の症状に当てはまります。

また(5)についても、感情のコントロールが難しくなったり、判断力が低下することが原因で、怒りっぽくなっている可能性があります。

認知症といっても、認知症の原因により症状が変わってきます。アルツハイマー型認知症、脳血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭葉側頭葉型認知症などがあります。

次回は、アルツハイマー型認知症についてお話させて頂きます。

介護老人保健施設よどの里 江﨑

認知症になっても(2)

誰だって自分の家で最後まで暮らしたい

前回(5月号)、「認知症の人が尊厳を保持しつつ希望を持って暮らすことができるよう、認知症施策を総合的かつ計画的に推進する」目的で「共生社会の実現を推進するための認知症基本法」(以下、認知症基本法)が施行されたという話をさせて頂きました。今回は、厚生労働省の老健局が出している、令和5年7月10日の資料4に書いてある中身を解説します。

基本理念(前回の目的を達成するための方針や考え方)については7つ挙げられています。

  1. 認知症の人が個人として自らの意思で日常生活を営むこと
  2. 国民が認知症についての正しい知識をもち、理解を深めること
  3. 認知症の人にとっての社会の障壁をなくすことで、地域の構成員として自立し、意見を表明し、様々な活動に参画し個性と能力を発揮すること
  4. 認知症の人の意向を尊重し、切れ目なく保険医療・福祉サービスを提供すること
  5. 家族等に対する支援により、認知症の人および家族等が地域で安心して生活できること
  6. 認知症の人が社会参加できるあり方を工夫し、その環境を整備すること⑦これらを色々な分野(教育や雇用、地域づくり等)で取り組みます。

(聞こえは良いのですが…)介護保険が使いにくい現状では、「地域に丸投げ」したと言わざるを得ません。国が何かしてくれるのではなく、私たち国民が認知症を知り、(互助や自助で)患っている方たちが暮らしやすくなる工夫をしないといけないわけです。

「(認知症をもった)こんな人、家に帰らせんといてくれ」私が、仕事をしていて言葉を失った言葉の一つです。誰だって自分の家で最後まで暮らしたい。認知症を患っているというだけで、それすらも主張できないのかと心苦しくなったことを覚えています。ぜひ、この記事を読んだことで、「認知症」を知るきっかけになり、一人でも地域でその人らしく最後まで暮らせるお手伝いが出来ればと切に願います。

次回は、認知症の症状について話をさせて頂きます。

介護老人保健施設よどの里 江﨑

認知症基本法|令和5年7月10日の資料4

認知症になっても(1)

認知症になっても その人らしく安心して暮らせる街に

はじめまして。介護老人保健施設よどの里で介護長をしている江﨑と申します。
この度、縁あって認知症の記事を担当させていただく事になりました。介護保険が始まって24年。私自身は介護の仕事に携わり20年が経ちました。

「住み慣れた町でその人らしく安心して暮らしつづけたい」この願いは、誰もが持つあたりまえの願いであると思います。しかし、国の医療・介護・福祉サービス利用への抑制政策もあり、ご本人、ご家族、福祉に携わる方々の努力だけでは難しくなってきています。そういう意味でも地域で暮らす方の協力が不可欠です。

認知症のことや、認知症予防、私の体験談など、この場を借りて(ゆるーく)紹介させていただけたらと思っています。少し間違った事を発信することもあるかもしれません。しかし、これを読まれた方が「認知症」について興味をもって下さることがこの記事の目的だと思っています。どうぞ(ゆるーく)お付き合いよろしくお願いいたします。

さて、今回は今年1月1日に(こっそり?)施行された、認知症基本法について触れさせていただきます。目的は「認知症の人が尊厳を保持しつつ希望を持って暮らすことができるよう、認知症施策を総合的かつ計画的に推進する」とされています。
簡単に言うと、認知症になってもその人らしく生活できるような仕組みを作ります。というような内容になります。具体的にどういう方針をもって国はその政策をなしていくのか?それはまた、次回に説明しようと思います。

介護老人保健施設よどの里 江﨑